―この世界は二つに分けられている。
天と地。
地は、いつか荒れ果て、やがて闇に呑まれるだろう―
昔々、世界は一つだったという。
様々な種族と、様々な生き物が自然と共存していた。
けれどそれは、ある国の国王によって、破られてしまった。
その国王は全てを自分の物にする為に戦争を起こした。
それは大きく広がって、後に神人分戦と呼ばれるようになった。
何故なら、その国王の行動に怒った異能力者や精霊達が地に人を閉じ込め、天へと飛び立ったからである。
その時、慈悲ある光の精霊は七大元素の精霊達で七色の光を地に残した。
“これが無くなれば、世界は闇に覆われる。
忘れるな。繰り返せば光は失われ、人は生きられなくなる。”
そう言い残して。
七色の聖賢
第一話 闇夜の訪れ
空には七色の光が輝いている。
村に訪れた語り部の話を小さい子ども達と聞きながら、煌は空の光を眩しそうに見つめた。
本来そこにある光は、太陽と呼ばれる自然の物である筈だが、あの光は作り物で、そのずっと向こうに茶色の陸地が空を塞いでいる。
煌は語り部の話も聞かず、光を見ていた。
「おい、煌!!」
突然光は遮られ、前に見知った顔が現れる。
「何だ、刹那か。」
刹那は煌の顔を窺う為に曲げていた腰を伸ばし、ため息を吐いた。
煌と刹那は幼馴染だ。そして同時に刹那は煌の五歳年上で、兄の様でもある。
「何だじゃない。さっきからずっと呼んでるのが聞こえなかったのか?」
「え、呼んでたのか?聞こえなかった。」
「全く。 村長さんが呼んでるぞ。」
この聖徳村の村長は煌の養父で、煌と刹那の剣の師匠だ。
村の人達は皆魔法を使うので剣を扱えるのは煌と刹那と村長の千里ぐらいだ。
聖徳村には魔物はそう寄って来ないので戦う必要もあんまり無い。
煌と刹那は、村の奥にある煌の家へと足を進めた。
「ただいま。」
「ただいま戻りました、千里さん」
煌は家族なのでさして敬語も使わないが、刹那や村の大半の人は千里には敬語を使う。
特に刹那が千里を“千里さん”と呼ぶときは千里の私用で呼び出されたときぐらいである。
それは何かが起こった時だ。煌を呼び出したのもその為だろう。
「ああ、お帰り。さて、早速用件に取り掛かるが、神楽の様子を見て来てほしい。」
「神楽の?」
神楽とは刹那の妹で、煌とは同い年のこの村最高位の巫女だ。
巫女とは神の意思を仰ぎ、村長に伝える役目を持つ人のことで、神楽は前巫女だった母の力を受け継ぎ、最年少で巫女の位に着いた。
村の近くにある山の頂上の神殿にある神の聖壇の部屋も巫女しか入れない。
今日は確か、その聖壇に行って神への供物を捧げる日のはずだった。
「神楽は朝早く神殿へ向かったのだが、もう昼を過ぎたというのに帰って来ない。
何か起こったのかも知れない、二人で見に行ってきて欲しい。」
「分かりました。」
千里の願いに刹那はすぐに返事をして踵を返した。
刹那と神楽は、両親が既に他界し、兄妹しか肉親が居ない。
そのためだろうか、刹那は目に見えて焦っていた。
神楽は巫女である。だから守らなければいけない存在だ。
それに刹那の妹であり、幼馴染である。
煌は刹那に続いてその頼みを承諾した。
「頼んだぞ。」
それを聞くと煌は先に行った刹那を追いかけた。
「心配か?」
先に家を出て聖殿の方向を見ていた刹那に声を掛けると、刹那は振り向いて
「当たり前だろ。 さ、行くぞ。」
と、撫でる様に煌の頭を優しく掴み、離してから山に向かって歩き始めた。
煌もそれに続き、二人は山を目指した。
「この山に来るのも久し振りだな…。」
普段巫女以外の人は山には立ち寄らない。
煌はたまに神楽の護衛の為について来る事があったが、それも一ヶ月前ぐらい前の話だ。
「そうか、煌は最近ついて行かなかったな。道は覚えてるか?」
「あー、なんとなく。ま、良いや、刹那がいるし。」
「おいおい、俺と逸れたらどうするんだ?」
「そしたらその辺の木にでも聞くさ。」
煌は珍しく木や動物の声を聞く事が出来る。それを知っているのは千里と刹那と神楽だけだ。
「あんまり使うなよ、その力、少し体力を消費するんだろう。」
その通りだった。木や動物に話を聞くには集中していないといけないし、聞いた分だけ少しずつ体力を消費していくのだ。
故に父の千里から使用を制限されていた。
「だいじょーぶだって、一日に10回!父さんの決まりは守るよ。」
「それなら良いけどな。」
と、話しながら少しばかり山を上った頃、草木がガサガサと揺れ、何かが飛び出した。
それは村の近くではあまり見かけない異形の姿を持つ、魔物だった。
しかも後から続いて何体も出てくる。
「魔物か…!」
「何でこんな所に居るんだよっ!」
二人は魔物の姿を見た途端に剣を抜いた。
「とにかく戦うぞ!」
そういうと刹那は走り、近くに居た魔物を絶つ。
煌も一番近い魔物へ走り剣を振るった。
二人は剣の師匠が同じでも戦い方や武器が違っていた。煌は両手剣、刹那は片手剣である。
師匠である千里が、二人の能力の違いを見て戦い方を換えさせたのだった。
二人が倒して魔物は減るが、まだまだ魔物は沢山居た。
「煌!これじゃキリが無い!一気に駆け抜けるぞ!」
「分かった!」
二人は眼前に居た魔物だけを切って進んだ。
そして、魔物が途切れると、坂道を駆け上がる。
頂上へは直ぐに着いた。魔物の追ってくる気配は無い。
「まずいな…。」
ふと刹那が呟く。煌は、何がだ?と訊いた。
「ここまで魔物が来ているなら、もしかしたら神殿にも入り込んでいるかもしれない…。」
「!だったら早く行こうぜ!」
煌が言うと、刹那が頷いて、二人は神殿に入った。
神殿内はもう既に侵入者避けの罠が解いてあった。おそらく、神楽が解いたのだろう。
けれど魔物がいるかも知れないので、二人は慎重に進んだ。
この神殿は罠さえ解けば広い方ではない。聖壇の部屋へはすぐに辿り着いた。
「さてと、どうするか…。」
「ここは神楽しか入れないんだろ?だったら待つしかないんじゃねーの?」
「でもなぁ…。」
刹那はやっぱり落ち着かないで居た。
と、その時聖壇への扉が開く。
「…二人とも、どうしたの?」
出てきたのは神楽だった。神楽は何事も無かったように煌と刹那を見上げた。
刹那はホッとしたような表情で、良かった、と呟いた。
一方の神楽は何が何だか分かっていない様子だ。
「実は父さんから神楽を迎えに行くように頼まれてさ。」
事情が分かっていない神楽に、煌が説明する。
「村長さんから?」
「ああ、外も魔物が出てきてるし、どうなってるんだか…。」
「そういえば…。」
異変に心当たりがあるように、神楽は思案する。
すると刹那が、どうしたんだ、と問う。
「神が…“そなた達の村だけは助ける”って言っていたの。」
「助けるって…何からだ?」
「それが、教えてくださらなかったの。」
神楽が首を横に振ると、しばらく沈黙が訪れる。皆その言葉の意味を探しているのだ。
煌は、しばらく考えていたが、顔を上げた。
「考えてても分かんねーし、とにかく村に戻ろう。」
煌の提案に、刹那と神楽は頷き、三人は元来た道を帰ることにした。
「でもさー、神様もハッキリして欲しいよなー、そういうの。
全治全能なんだろ?何が起こるとか、分かってんなら教えてくれても良いのによ。」
「ハハハ、まあそう言うな。お偉いさんにも事情があんだろ。」
「えー、ケチくせー。」
煌がそう言うと神楽の顔がだんだん暗くなっていく。
神楽も煌の言う事は一理あると思っているが、巫女である立場から神への冒涜は許されないのだ。
「ほらほら、文句を垂れるな。そら、出口だ。」
刹那の指した方向にはいつもの眩しい明りが差していた。
「おかしい…。輝き過ぎてる。」
神楽が呟くと、光は更に輝きを増した。
「何だよこれ!」
「外へ出てみよう!」
三人はだんだんと収まっていく眩しい光を見ないように外へと飛び出した。
外へ出たときには光は元通りに収まっているかと思われた。
けれど、見えた風景には一つだけいつもと違う所があった。
「村が…無い…。」
普通なら神殿の外から見下ろせるはずの、煌達の故郷である聖徳村。
その全てが、元々何も無かったように忽然と消えていたのだ。
「おい、あれを見ろ!」
刹那が差したのは上空、七色の光がある場所だった。
その次に煌たちは信じられない光景を見た。
七色の光は、ゆっくりと回転をはじめ、一つになり、やがて、消えた。
BACK/NEXT